重症軟部組織損傷に対する高気圧酸素治療の有用性に関する検討
研究計画書
The efficacy of hyperbaric oxygenation therapy to crush injury:
A randomized controlled clinical trial
平成23年10月12日
第169回
岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会
により承認
1.研究の目的
重症軟部組織損傷の創傷管理において、高気圧酸素治療の施行が有効であるか否かの解析を行う。
2.研究の背景
今日においても、重症軟部組織損傷は管理に難渋することの多い損傷であり、抗菌化学療法が発達した今日においても感染リスクは極めて高い。また,組織破壊が著しく、多くの症例で大きな組織欠損が生じてしまうことが多い。
一方、1950年代より行われてきた高気圧酸素治療では難治性潰瘍に対しての有効性や、細菌増殖に対する静菌的、殺菌的な作用が知られている。これらの事実から現在、重症軟部組織損傷に対する高気圧酸素治療は一部で行われている。しかしこのEvidenceとなっている、Bouachourらの挫滅創に対する高気圧酸素治療の有効性に関してのRCTは1)研究デザインの無作為割り付けの段階での問題が指摘されており、RCTとしての信頼性には疑問がある。2)また、この研究はいわゆるlimb selvageまたは創傷の治癒自体に主眼がおかれ、合併症については検討されていない。しかしながら、その後は世界的にみても規模の大きな研究は少なく、さらには介入研究についてはほとんどなされていない。このため有益なEvidenceの蓄積はなされていない。また、本邦においては、施行そのものが少数にすぎない。3)
他方で、これまでの種々の報告から、細菌感染に対しては有効性が示されていること、4)~7)また組織欠損に対する治療として有効性が認められていることから考慮すると、両者の性格を併せ持つ汚染・挫滅創傷に対しての治療は有効性が高いと思われる。この仮説のもと感染率、感染による再手術率をprimary endpointとして当施設で行ったRetrospectiveな検討でも有効性は認められた。以上の結果より現在も管理が困難である汚染・挫滅創傷に対して、これらをendpointとしての有効な治療であることを示し、新たな標準的治療とする必要がある。本研究ではこれらの背景を鑑みて介入研究を計画するものである。
また、副次的には、本研究の意義は、安全性が確立された治療法による研究であるので有効性が示されれば直ちに一般臨床で利用可能であること、日本全国に「眠る」高気圧酸素治療器(医療資源)を有効活用しうることにもある。
1:対象とする患者
以下の条件に合致する成人患者で、文書による同意が得られた患者。
GustiloIIIA以上の開放骨折、挫滅創を有する。この挫滅創とは、体表面積のうち1%以上の組織欠損(熱傷を参考にして決定すること)を伴うものとする。ただし、その組織欠損については、皮下組織以上の進展の面積とする。
その中で
・体幹部に生命を脅かす外傷がない
・閉所恐怖症がない
・呼吸状態、循環動態が安定している
具体的には、以下の患者は除外とする
・人工呼吸管理を要する患者(NPPVを含む)
・気胸がある患者
・循環動態不安定な患者
具体的には、
・ノルアドレナリン使用中の患者
・ドパミンを4μg/kg/min以上使用している患者
・ニカルジピンを4ml/hr以上使用しても、収縮期血圧が150
以下にコントロールできない患者
・ニコランジルを点滴で使用中している患者
・アミオダロンを点滴で使用している患者
・心不全管理の為にカルペリチドを使用している患者。
・呼吸障害のリスクのある患者
具体的には、
・気管支喘息(急性期)
・重症肺気腫
その他安全基準
7)の上で、禁忌に該当しない。なお、院内で独自の安全基準がある場合は、その施設の基準に従い、治療の可否を決定する。
2:治療条件
観血的治療翌日から開始。
2ATA 60分 1日1回施行 7回
施行する機械は、第1種、第2種の別を問わない。
3:一般治療
・創傷に対する治療:可及的速やかに洗浄およびデブリドマン手術を行い、
必要がある場合は、創外固定を施行する。
・創部の処置に関しては、各施設で行っている従来の通りの創傷処置を行う
(方法は特に指定しない)
・使用抗菌薬:(1)CEZ(2g×3回)+CLDM(900mg×3回)
(2)ABPC/SBT(3g×4回)
いずれかを選択する。
なお、感染症を発症した場合は、その時点で適切な抗菌薬に切り替える。
4:エンドポイント
感染率:14日、28日時点での感染率(ただし、創外固定ピン刺入部位の感染などのいわゆるSSIは除外する)
(感染については、局所炎症兆候を認める、グラム染色で菌体の存在+培養で細菌が確認される、SIRSの診断基準を満たす、のすべてに該当する症例とする。感染の診断は主治医以外のもう1名の確認を要する。)
再手術率:感染に起因して再手術が必要になった率
救命救急センター入室期間・リハビリ開始までの日数・入院期間
5:研究機関
倫理審査結果通知日~2014年9月30日まで
目標症例数に到達した時点で研究を終了する事がある。
1:利益相反
本研究を行う上で、如何なる企業・団体等と産学官連携活動その他の社会貢献活動を行うことや、一定額以上の物品や金品、サービスを受け取ること、役務提供を受けることは一切ない。
2:費用負担
通信等に要する費用については、岐阜大学教員研究費より支出。
なお、高気圧酸素治療も含めて治療に関しては一般保険診療の範疇内であるため、通常の診療と同様に診療報酬請求をするものとする。
※「救急的適応疾患」での算定が可能。重症挫滅創または重症外傷性挫滅創の病名登録が必要である。
なお、発症7日を超えての治療となった場合は、「非救急的適応」での保険請求となる
3:補償
一般的には安全性の確立された治療法による介入研究のため、通常の治療以上のリスクは生じ得ない。ただし、何らかの有害事象が生じることを完全に否定できるものではないので、臨床研究保険に加入する。何らかの有害事象が生じ、補償の義務が発生した場合には、この範囲で補償を検討する
4:研究の中止
中間解析の結果、治療介入群が感染率などでむしろ悪化を認める等、不利益が上回ると判断した場合には、研究の中止をすることがありうる。
なお、これとは別に、対象となる被験者は、治療の開始前・開始後に関わらず、本研究の同意をいつでも撤回できる。また、同意を撤回した場合、試料やデータは全て廃棄する。