| English |



■ お問い合わせ先
一般社団法人 日本外傷学会事務局
 株式会社春恒社 学会事業部内
 〒169-0072 
 東京都新宿区大久保2丁目4番地12号
 新宿ラムダックスビル
 TEL:03-5291-6259
 FAX:03-5291-2176
 e-mail:jast@shunkosha.com







外傷専門診療ガイドライン JETEC™について

 外傷研修コース開発委員会では外傷診療の標準化と研修コースの開発について議論を重ねた結果,その診療の範囲があまりにも広すぎるため,①初期診療と②根本治療を行う専門診療とに分けることにした。初期診療に焦点を当てた研修コースを「Japan Advanced Trauma Evaluation and Care;JATEC」と称し,その基本となるテキストを「外傷初期診療ガイドラインJATEC」として初版を2002 年に上梓し,以降,改訂を重ねてきた。同時にスタートさせたJATEC コースも確実にその成果を収めてきた。その理念はpreventable trauma deathを回避することを目的に生理学的徴候の異常から診療を開始することを推奨し,「一人の医師」で対応する状況を設定している。

 一方,根本治療に焦点を当てた専門診療の研修(Japan Expert Trauma Evaluation and Care;JETEC)については,そのニーズが高いものの着手するのが困難であった。その背景には,コース開発や運営維持に人的,財政的な負担が大きいことも一因であるが,JETEC の目的と守備範囲が明確でなかったことである。しかし,JETEC の位置づけを明確にすることは本学会が担う専門分野や専門医の資格要件と不可分の関係にあることから,本学会の最重要課題と位置づけた。2012 年7 月,外傷研修コース開発委員会,日本救急医学会JATEC コース企画運営委員会の委員に加え,専門医委員や専門医検討特別委員も関与して,JETECの検討を開始した。そのなかで,「JATECの引き継ぎ」,「専門性」,「根本治療」,「意思決定」,「チーム医療」,「トータルマネージメント」等が強調され,これらがJETEC の方向性を決定するキーワードと考えられた。したがって,JETEC は「JATECで指導する初期診療を引き継ぎ,チームとして質の高い根本治療と患者管理が行える」ことを一般目標とすることで意見が一致し,JETEC 編集委員会(委員長:田中 裕)を設置して「外傷専門診療ガイドライン JETEC」を2014年7月に上梓した。

 外傷診療の専門性は,"multidisciplinary approach"の質を保証する仕組みに尽きる。そのために各損傷の治療に必要な知識や技能を向上させなければならいことは言うまでもないが,それ以上に診療の組み立てや管理能力を磨く必要がある。前者を「戦術」と表現すれば,後者は「戦略」ということになろう。手術や処置に関する「戦術」については,術式の創意工夫や新しいデバイスの開発などにより変化し,状況に応じた多彩な手法が存在する。一方,「戦略」は人,物,技術の管理であり,限られた時間経過のなかでの意思決定も含まれる。「戦略」に標準化はなじまないが,その展開には一定の理論が存在する。外傷診療を専門とする者にはこの戦略立案の能力を期待したい。したがって,外傷専門診療ガイドラインJETEC では「外傷治療戦略」に力点を置いた。手術などの「外傷治療戦術」については代表的なものにとどめてある。不足する部分は関連する診療科の手術書や日々紹介される学術誌を参考にしていただきたい。

 本書が外傷診療を専門とする医師のバイブルであると同時に,関連する診療科の医師にとっては外傷診療に専従する際のテキストとして活用していただきたい。さらに本書の内容を実践することで,わが国に質の高い外傷診療体制が整備されていくことを願っている。

一般社団法人 日本外傷学会 The Japanese Association for The Surgery of Trauma. All rightsreserved.